toriomamaの野望

toriomamaの野望

パラソル

「この大空に翼を広げ飛んでゆきたいよ~」
校舎に合唱が響き渡る。合唱部か合唱コンクールか、この歌懐かしいと思いながら私は、フェンス越しに校舎を覗いた。
空は青く秋晴れの中、野球部や陸上部が練習に励んでいた。
「さ、帰ろうか」
連れがいるわけでもないのにそう呟いて、その場から離れて歩き出した。
フェンスを握りしめて中をのぞいていたので手が痛い。

「仲野?」
不意にわたしは呼び止められた。
「仲野だろ?」その声はもう一度わたしの名前を呼んだ。
声のしたほうを振り向くと、そこにはエプロン姿の猛が立っていた。

上条 猛 2年前中学3年の時の同級生だ。でも、あんまり話したことはない。
内気で内向的だった私は、男の子とおしゃべりなどできないお子様だった。
それでも教室のムードメーカーであった猛のことは好感をもっていた。
あの事があるまでは…

「やっぱり!懐かしいな。何年ぶりだっけ?」
屈託のない笑顔で私に近づいてくる。
「・・・・」
「なんだよ。忘れたんか?タ・ケ・ルだよ。上条 猛」
忘れているわけではないが、言葉が見つからない。
黙っていたわたしにしびれを切らして猛はまくし立てた。
「相変わらずおとなしいな。仲野は・・・あんときは悪かったな」
猛はばつが悪そうに頭をかきながら言った。
私が不思議そうな顔をすると猛は
「あの時日記を見たのは、からかう為じゃなくて・・でもあとからとても後悔したんだ。こんなとこに置いとくな。なんて暴言はいちゃったしな」
「・・・・」
「まだ 怒ってるか?」
わたしは首を振った。
「そっか!よかった。あ俺今配達のバイト中だから、行くな!バイト先、角の酒屋だから何かあったら顔見せろよ!」
自分で言いたいことを言って猛は走って手を振りながら角の酒屋へとはいって行った。
わたしは、それを見送ってから反対の方向へ歩き出した。

わたしは 仲野 葵。高校に通っていたつい1か月前までは・・・
不登校というわけではない。だって私は病気だから・・・


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